silent Night

クリスマス
神様が生まれた日
サイレント・ナイト
静かな夜
待っている 私は
あの人が 帰ってくるのを


冬。
寒い冬。
長い冬。

この地方の冬は厳しい。毎日のように吹雪く。
人々は家の中に閉じこもり、春まで、たとえ隣人同士でも会うことはほとんどない。
残念ながら、私に隣人はないが。
私は家の中、何もすることがない。

だから、眠る。

眠れば、何も考えなくてすむから。
眠れば、あの人と夢で逢えるから。

冬。
寒い冬。
長い冬。

何もない。でも、大切な季節。
あの人との約束は、もうすぐ。


パチリと暖炉の薪のはぜる音。
ガタガタと、風が窓板を鳴らす音。
もう聞き慣れた、冬の音。

今日、何日だっけ。眠ってばかりでわからなくなった。
暖炉の前に座って、ボンヤリと指折り数える。
今日、何日だっけ。


”今日は、もう「約束の日」だよ”
私の傍らの猫が、ぐるりと伸びをした。
「闇夜」の名前を持つ猫。
初めて会ったとき、彼がそう名乗った。
艶やかな漆黒の毛並み、双方で輝きの違う眼。
魔力を持った猫。

珍しく吹雪かなかった3年前の今日の夜。
十六夜の月の下、
彼は私を迎えに来た。

”君を迎えに来た”

あの人が、もう帰ってきてくれたのかと思った。
そんなはず、ないのに。

”君を迎えに来た”

だめよ、約束があるの。
あの人が「5年経ったら帰ってくる」と言って、この家を出ていった、
2年前。
私は「待っている」と答えた。
約束。
あの人との、大事な約束。
「5年後のクリスマスに、必ず俺は帰ってくるから」
そう言って、あの人は、最後に強く抱きしめてくれた。

だから、私は待っているの。


”そして、今日が「約束の日」”

ああ。
いつの間にか、そんなに時間が経ってしまったのね。
暖炉にかかった湯鍋が、静かに蒸気をあげている。

初めは、あんなにも待ち遠しかった、あの人の帰り。
今は、何も感じない。
5年の月日が、私の心に雪を降り積もらせた。
あの人の足跡は消されて、代わりにポツンと小さな影がひとつ。

”「あの人」は、どこへ行ってしまったんだい”
知らないわ、聞かなかったもの。
”帰ってこないかも知れないよ”
いいの、それでも。
「約束」だったから。

ごめんね、貴方までこんなに待たせてしまって。
黒い使者は、仕事の最中だったのに。
私は、彼をそっと抱き寄せた。
羽根、神様の翼のように軽い。
不思議ね。
こうしていると、私は昔からあなたと居たみたい。
大きくて、暖かい力を感じるの。
彼は、私の耳元で囁いた。

”僕は、いつでも君のそばにいたよ”


止まっていた時計のネジをまいて、時間を合わせた。
もうすぐ今日が終わる。約束の日が、消えて行く。
あの人は、まだ帰ってこない。
多分、もう帰ってこないわね。

果たされなかった「約束」。
私1人が置き去りにされた。

仕方ないから、暖炉に焼べてしまおうか。
偽りの魂の火を、今少しだけ見ていたいの。
パチリと、薪がはぜる。
ひとすじだけ、涙がこぼれた。


”おいで。吹雪が止んでいる”
いつしか、戸を開けて外に出ていた彼が、私を呼んだ。
真っ白い雪の上に、ポツンとひとつの影。
「闇夜」の名を持つ猫。
魔力を持った猫。
背中には、大きな月が浮かんでいる。

”改めて言う”

3年前と、同じだね。

”君を迎えに来た”

わかっている。今、行くわ。



家の戸を、閉めてくる。


  









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